第4章 学習心理学
4-1. 学習とは何か
学習: 経験によって生じる一時的ではない心理的機能に関わる行動の変化 外から観察できないものも含まれる
学習によって獲得した行動ではないものもある
生まれつき備わっているもの、成熟のプログラムによって自然に発現するもの
「反射的に目をつむる」といった反応
「思春期に髭が生える」というような身体上の変化
一時的なもの
「飲酒によって陽気になる」
心理的機能に関わるものではないもの
トレーニングによって筋肉隆々の身体になる
4-2. 2つの条件づけ
4-2-1. 古典的条件づけ
ロシアのパブロフはイヌにエサを与えるたびにメトロノームを鳴らす→イヌはメトロノームの音を聞いただけで唾液を分泌するようになった(Pavlov, 1927) 本来のその反応を引き起こすはずのない中性刺激に対して反応が生じた 古典的条件づけによっていったん条件反応が引き起こされるようになっても、無条件刺激を対にせず、条件刺激のみを提示し続けると、やがて条件刺激を提示しても条件反応は起こらなくなる
メトロノームの音で唾液を分泌するように条件づけられたイヌが、同様にカチカチと音のする時計でも唾液を分泌したとき、メトロノームの音が時計の音と同様の効果を持ったことになる
メトロノームの音で唾液を分泌するように条件付けられたイヌが、時計のカチカチという音では唾液を分泌しなかったとき、イヌは2つの刺激を区別したことになる
4-2-2. 道具的条件づけ
スキナー(Skinner, 1938)はレバーを押すとエサが出てくる装置のついたスキナー箱と呼ばれる箱でネズミを観察した https://gyazo.com/f0cadb1bb40f59d26fa968c6907e0a00
ネズミは最終的にエサがほしいときにレバーを押せるようになった
スキナー箱の床から嫌悪刺激である電気が流れるようにしてレバーで止まるようにしたとき、ネズミはレバーを押して電気刺激を避けることを覚えるようになる
強化: 自発的反応に刺激を随伴させ、反応頻度に影響を与える手続きや働き 正の強化: 反応に伴って報酬となる刺激(正の強化子)が提示されることでその反応が増加すること 弱化: 強化とは逆にすでに獲得してしまった行動を消失させる手続きや働き レバーを押すと電気が流れるようにすると、レバーを押すという行動をしなくなる
消去: レバーを押してもエサが出ないようにすると、レバーを押さなくなる 古典的条件づけは自発的な行動を伴わないのに対して、道具的条件づけでは自発的行動によって学習が成立する
道具的条件づけによって意図的に行動を形成することもできる
目標の行動まで徐々に学習させる
複雑な行動の形成も可能
スキナーはひもを引いてラックからおはじきを取り出し、それをチューブの中に入れれば、ペレット状のエサがでてくる装置がついた箱を用意し、その中にプリニーと名付けられたネズミをいれた。
それぞれを継時的に強化することで最終的にはプリニーにこの一連の行動を獲得させるまでに至った(Skinner, 1938)
人が自販機にコインを入れて飲み物を手に入れる過程と現象的には類似
4-3. その他の学習様式
4-3-1. 観察学習
バンデューラらは子供が暴力行為を観察することの影響を調べる実験を行っている(Bandura, et al., 1963) 以下の3パターンの観察後にお気に入りの玩具を取り上げるとどう振る舞うかを暴力行為を観察しなかった子どもたちと比較
1. 人が人形を殴ったり蹴ったりする様子を直接観る
2. その様子をビデオで観る
3. 乱暴なネコが人形を殴ったり、蹴ったりするアニメを観る
結果、暴力行為を観察したいずれの子供も観察しなかった子どもたちに比べて攻撃的になることがわかった
観察学習(社会的学習): 直接、間接を問わず観察することで、それがモデルとなってその行為を学習する過程 模倣: モデルの行動と同じ行動を単純に取り入れること 代理強化: モデルに与えられる強化が観察者への間接的な強化になって行動が学習される 観察学習は直接的な強化は必ずしも必要としないが、行為の結果に対してモデルに与えられる強化が重要になることがある
観察学習は古典的条件づけ、道具的条件づけと違い、学習の成立までに何度も試行する必要がない
4-3-2. 洞察学習
洞察学習: 試行錯誤的なものでなく、目標に向け明確な予測の下で行われる学習 ケーラーが高いところにバナナを吊り下げたところ、数匹のチンパンジーのうちの一頭はひらめいたように近くの箱を持ってきて箱の上から飛んでバナナを手に入れたという(Köhler, 1917)
学習が成立するメカニズムの考え方
特定の刺激に特定の反応が結びつくことが学習だと考える
古典的条件づけ: メトロノーム(刺激)と唾液の分泌(反応)の結びつき
道具的条件づけ: レバー(刺激)とそれを押すこと(反応)の結びつき
結びつきには試行が繰り返されることが必要で最終的な学習の成立までは漸進的
刺激と反応の連合(結びつき)が学習の基本単位であり、高度で複雑な人の学習もこの基本単位の組み合わせと考える
経験に基づき、問題の全体構造を把握したり、問題解決の方法を発見したりすること、つまり認知活動が学習の本質だと考える
試行の繰り返しは必要とせず、学習は一瞬のひらめきによって一挙に成立すると考える(森, 2013)
観察学習は観察した行動が保つ意味を考え、それに価値づけをするなどの認知的な過程が想定できる点で認知理論の色彩ももつ
洞察学習では予測(仮説)を立ててそれが適切であれば1回の試行でも目標となる行動を獲得する
洞察学習は認知理論に沿ったものといえる
4-4. 認知心理学への展開
個体差を説明するためには個体によってどのような情報処理が行われているかに違いがあると考えられる
刺激(入力)と行動(出力)の間を媒介する頭の中の働き、すなわち刺激に対する情報処理の過程(認知過程)が行動に大きな役割を果たしていることになる
認知心理学でも問題解決は重要なトピックの一つ
既有の知識が新たな問題解決にどう適用されるかといった問題は類推(アナロジー)の研究として取り上げられている この問題の解決策はいろいろな方向から微量の放射線を同時に腫瘍部分に当てる
大学生の正答率は10%ほど
ヒントになるはずの要塞物語を呼んだ後でも正答率は30%程度
多くのものが要塞物語で得たはずの知識を放射線問題には使えなかった
類推研究では解決すべき問題をターゲット、ターゲットに使いうる既有の知識をベース、ベースをターゲットに当てはめることを写像という。 類推による問題解決が成功するためにはベースをターゲットに写像できることが必要だと考えることがある
上記の例ではターゲットの放射線問題にベースの要塞物語をうまく写像できなかったということになる
ジックとホリオークは類推を促進する条件についても探っている(Gick & Holyoak, 1983)
要塞物語だけではなく、消防士物語のような別の集中分割の文章も読んでおくことで、放射線問題の成功率は大きく上昇した。
複数の文章の共通部分から分割集中という問題解決の鍵が抽出されたためと考えられる
類推による問題解決が成功するためには、個々の情報から個別性を越えて解決の鍵となる分割集中という抽象化された知識を抽出する必要があることがわかる